ハサミ男 著:殊能将之 講談社文庫

 

研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。三番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て 殺された死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」が調査をはじめる。

ハサミ男 (講談社文庫)

ハサミ男 (講談社文庫)

 

個人的に

 本書はトリックを含んだP500ほどのミステリ小説である。他のレビューを見たうえで感じたのは、文章のどの部分でトリックに引っかかるかというのも人それぞれ異なるという点だ。その境目に気を付けて読んでみるのも面白いと思う。(私は最初と途中で二度引っ掛かった) 付け加えておくと、皮肉な表現が多用されているため、好き嫌いがはっきりとあらわれる小説とも言える。殊能さんの著書の特徴として、引用書籍の数が多いことが挙げられる。中には、あまりにも多すぎて、この本をどこで使用したのかと書評する人が困っていた話があるくらいだ。本題では、調査をはじめるとあるけど、周辺の人にばれないように調査をする、この立ち回りのうまさがとびぬけているのは言うまでもない。実際にこんなに調査がうまければ、能力を活かして違う仕事をしていた方が割に合うんじゃないかと思う。しかし、ハサミ男東横線ですぐ行ける会社が良いらしい…

 (^^) _旦~~

 「私は」の人称から最初は女性を想像して読んでいたが、公園での殺人現場でのやりとりから、男性がハサミ男だと勘違いしてしまった。でも男目線で読み進めていくと、ホントに男なのかとひっかかる部分がちょこちょこある。そこにもどかしさも感じながら、日高のアパートでトリックが明らかになる。

 

「<おふらんど>ってどういう意味なんですか。辺鄙な土地、かな」

「なるほど、<オフ・ランド>ですか。そういう解釈は初めて聞いたな。じつはフランス語なんですよ。<捧げ物>という意味です」

わたしにとって店主から得た情報は、欲しくもない捧げ物だった。

 

 

 疑問

Q1: 安永知夏の本来の人格はどれ?
Q2:医師という人格はなぜ存在するのか?

  ハサミ男は多重人格者である。一人は自殺未遂を繰り返す女性?の人格二人目は医師。これは父親の姿と重ねた人格(ただ父親らしく心配している描写があるので、性格は完全には一致しない)。最後の一人は父親に見せた女性の人格である。特に、病室で父親と会話している最後の人格は、一人目の人格が会話しているのかと思ったが、それは私の声ではないとあるので、消去法をとると、第三番目の人格はこれまでに出てこなかった人格だとわかる。ここまでまとめてみると次のようになる。

① 自殺癖のある人格が主に表面に出てくる人格

② 父親と会話した人格が深層心理にある人格であること

 父親と会話しているのが自殺癖のある人格(以降A)だとすると医師という人格をどうして作ったのかを考える必要がある。それを考えるのは第三人格(以降C)が本来の人格であることを考えた時にも役に立つ。話を戻すとAがなぜ医師(以降B)という人格を作らなければならなかったか? Bは父親の姿と似ている。父親に対してあこがれや何かの感情がBという人格を作り出したのだろう。しかし、Aはそういった会話を見ていても何も感情的な言葉を発しなかったため、その可能性は高くないだろう。そもそも精神的に動じない人格からわざわざ弱い人格を作ってしまうのは、Aが心理的には虚勢であることを意味する。BやCを隠れ場所のように使うならこれでもいいのかもしれないが、Cに至ってはほとんど会話にすら出てこない。やはり、Aがもともとある人格とは考えにくい。では、医師自身が「きみはぼくがつくりだした妄想人格にすぎない」と言っている通り、本当の人格なのだろうか。この場合ならば、Aという強い人格を作ることはまあ理解できなくもない。しかし、Cを作る理由にはならない。これは例外かもしれないが。だがこれもまた否定される。夢の中でAが樽宮と会話しているときに、「あなたがうらやましい。あなたには閉じこもる場所があるもの」と言った、これは決めてだと思う。その人格がものすごく強い存在であることも述べている。これに加えて、医師の声でもわたしの声でもないという記述からして父親と会話した時の人格Cが本当の人格であることがはっきりした。なぜなら親を前にして医師は表層心理から逃げてしまったからだ。ここいらでQ1のまとめをしよう。

 

Q: 安永知夏の本来の人格はどれなのか?

A: 本当の人格は、病室で会話しているときの人格

 

 

次にQ2である。疑問の発端は医師が病室で言った一言である。

「ライオス王のお出ましだ」

補足(wikibediaより)

ラーイオス古希ΛάϊοςLāïos)は、ギリシア神話に登場するテーバイの王である。メノイケウスの娘イオカステー(エピカステーとも[1])との間に息子オイディプースが生まれた。ラーイオスがオイディプースに殺された神話は後に「エディプスコンプレックス」の語源となった。

  最終的にオイディプスはライオス王を殺し、イオカステを妻に娶るそうだ。このギリシア神話より、Bという人格が生成された背景には父親と対立したいという意思があったものだと推定する。(一人暮らしであるのもそうかもね)安永自身にどんなストレスがかかっていたかは想像しがたくない。Aという人格は頭のいい女の子を狙っていた。この行動から頭のいい女の子であるべき、そうでなければならないという考えが負荷をかけ、生成されたと私は考える。それは元々幼少期から父親に言われて育ってきたという背景とかが影響した結果だと思う。これ以外にリソースが見当たらないのでいったんまとめてみる

 

Q2:医師という人格はなぜ存在するのか?について

A2:断言できないが、父親との対立心から生まれたのではないかという推定。

 

残る疑問は以下の通りだ。

Ⅰ なぜ自殺未遂を繰り返すのか?

 

そのうち考えていきたい